企業価値評価

中小企業のM&Aにおける企業価値評価は、年倍法、DCF法、類似会社比較法が主な評価手法です。これらのなかで最も採用されることの多い手法は年倍法で、時価純資産+のれんにより企業価値が算出されます。純資産をベースに計算するため、中小企業のオーナー経営者にとって理解し易いのが主な理由です。他の評価手法は、計算するとしても年買法を補完する意味合いであることが多いです。


▷詳しくは:経営者必見!M&Aにおける中小企業の企業価値評価の実態を徹底解説

価値算定のタイミング

株式価値算定等の企業価値評価(バリュエーション)について、実施するタイミングは主に3つあります。M&A検討初期、リスクの洗い出しを行う中期、譲渡価格決定のための最終段階です。これらのタイミングでは、限定的な情報を元にした簡易バリュエーションから、詳細情報を基にした精度の高いバリュエーションまで実施されます。


▷詳しくは:企業価値評価|M&Aでの算定時期・方法・その他ポイントを解説

年買法(純資産+のれん)

年買法(年倍法)では、時価純資産に、「のれん」を加算することで、企業価値が計算されます。この方法は、会計知識が最低限あれば理解でき、特に中小企業の事業承継やM&Aに適しています。時価純資産は、含み損益や簿外債務を考慮します。「のれん」は企業のノウハウやブランド力など将来収益を生み出す可能性がある無形資産の価値で、実務的には利益の数年分(3年程度が多い)として計算されます。

注意点としては、年買法は過去の利益に基づいており、将来の利益を保証するものではないため、実際の取引価格としての適用には限界があります。適正な年数の設定も重要で、通常は2年から5年の範囲内で決定されますが、企業の将来性や業界の特性に応じて変動します。


▷詳しくは:年買法とは?年倍法の計算法、注意点、適正年数を詳しく解説!

DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法

DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法です

計算の流れは、まず将来のフリーキャッシュフローを予測し、適切な割引率を設定します。その後、各年のFCFを割引率で現在価値に換算し、これらの現在価値を合計して事業価値を算出します。算出された事業価値に非事業用資産(余剰現金など)を加算の上、有利子負債を控除して株式価値を求めます。さらに、非流動性ディスカウントやマイノリティディスカウントを考慮することもあります。

DCF法のメリットは、成長性の高い企業や将来のキャッシュフローを重視する評価が可能であること、事業計画の策定による企業の深い理解が挙げられます。デメリットとしては、策定した事業計画に依存するため、恣意性が高まる危険性があり、複数の手法を組み合わせることで精度の高い評価を目指す必要があります。

割引率には、一般にWACC(加重平均資本コスト)が使用され、これには株主資本コストと有利子負債資本コストを反映させます。WACCの計算は、株主資本と有利子負債を加重平均し、実効税率を考慮して行います。WACCの設定も重要で、適切な計算が求められます。


▷詳しくは:DCF法とは?基本概念から計算方法までを徹底解説

類似会社比較(マルチプル)法

類似会社比較法は、評価対象会社に似た業種・規模の上場企業を参考にして、その上場企業の利益や純資産等に対する企業価値の倍率を用いて、評価対象会社の相対的な企業価値を推定する方法です。

具体的には、主にEV/EBITDA倍率が用いられ、類似上場会社の倍率を基に評価対象会社の価値を算出します。EVは企業価値、EBITDAは概ね営業利益+償却費です。EBITDAの他にも、売上高やEBIT、PER、PBRなどの指標が利用される場合があります。

類似会社比較法のメリットは、計算が比較的簡単であり、市場価値との比較が容易であることです。一方で、適切な類似上場会社の選定が難しいことや、個別事業の特徴が反映されにくいという欠点もあります。そのため、企業価値をより正しく把握するには、複数の評価手法を併用することが望ましいです。


▷詳しくは:類似会社比較法|EBITDAマルチプルによる計算方法、メリット・デメリットを解説

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